2011
お久しぶりです。
随分前に日記に書いて、引っ越しの際にアップし忘れていたものが出てきたので、一応ここに載せておきます。
フランキー兄貴が仲間になったばかりの頃書いたものだと思います。
タイトル決めたはずだったけど、何だったかな…忘れたよ…
万一覚えている方がおられましたら、ご一報を~!
実験的フランキー視点ゾロサン
「一面、オメェとロロノアだらけみてェだな」
丘陵に咲き広がる花畑は、まるで黄色と緑の絨毯のようで、どこかで見覚えがあると思ったらそれは、コックとロロノアだと思い当たった。
なのでそう呟くと、何故かぐるぐるコックは顔を真っ赤にして、口をパクパクとさせている。
普段はスカして、無理やりアホな自分を隠したがっているようなコックだが、金魚のようなその様は、笑い出したくなるほど子供っぽかった。
「な、おま、フランキー!言うに事欠いてマリモと俺の名を並べてみせるたァどういう…!!」
そんなに動揺させるようなことを言っただろうか。
フランキーは、急に汗ダクになりながら訳の分からない理屈を並べ立てるコックの、あまり頭の良くなさそうな顔を見て首を捻った。
まだコイツらの仲間になって日が浅い。日常生活には溶け込んだつもりでいたが、まだヤツらの人間関係を把握しきったとは言えない。
どうもロロノアとこのコックは仲が悪いらしいのだが、派手なケンカを繰り広げていても、何故か周りの仲間は一様に呆れ顔で、明らかに犬も食わないエサを見るような視線を二人に送っている。それを見て、単なる犬猿の仲ではなさそうだと思っていたのだが。
フランキーは割と聡い男である。人生経験が豊富な分、人を見抜く力にも長けている。
もしかしたらとは思っていたが、このコックの動揺した様子に、ハハーンと納得した。
しかしここで「さてはオメェらデキてるな?」などと言わないところが、人格者たるアニキなのである。
わめき続けるコックを揶揄いたくなる気持ちもあるが、バレバレでも当人が隠しておきたいのならば、あえて触れてやることもあるまい。
どういう経緯で、あのダラけた野生の獣のようなロロノアと、世界一の女好きコックがそんなことになったのか。
まァ長い航海、知りたくなくても知る機会もあるだろうと、フランキーはコックの背中を叩いた。
「ホレ、この花摘んで帰るんだろ?急がねェと日が暮れる」
「…あ?…ああ、そうだ、花…」
毒気を抜かれたように大きな目を更に丸くし、コックは落ち着きを取り戻しながら頷いた。
ここは春島、オグルヴィ島。
平和で小さな村がひとつだけある、長閑な場所である。
ウォーターセブンを出航してからというもの、さしものフランキーも顎が外れそうな冒険が息つく暇もなく向こうからやってきていたのだが、ようやく一心地できそうな、言い換えれば面白みのない島に今朝到着したばかりだ。
船番を除く全員で散策をした後、特筆すべきもののない島に興味をなくしたクルー達は、一晩で溜まるというログをおとなしく船で待つことにした。
しかしコックだけは、この島唯一の名産である「オグルヴィヴィ」を求めて、村人に聞いた丘陵へやって来た。
何でも非常に甘い蜜を含んだ食用花だそうで、あまりに群生しているため売るほどの価値はなく、勝手に生えているのを収穫して行け、とのこと。
「その花でレディたちに甘ーいゼリーを作って差し上げるんだー。だから一緒に来い」
黄色い頭をピヨピヨと振って、コックはフランキーに偉そうに命令した。
オグルヴィヴィは春に一斉に咲く花で、しかし摘んですぐに低温で保存しないと萎れてしまうらしい。美味いが扱いが面倒でもあると村人は言った。
そんなわけで、腹に冷蔵庫を持つフランキーがご指名されたのだ。
フランキーは一晩しかない停泊の間に、船の外周をチェックしたかったのだが、見たところまだ大した傷みもないようだったので、コックの花摘みに付き合ってやることにした。
実を言えば、まだ船旅には慣れていない。船大工が船に慣れていないとは何事かと思うのだが、作るのと乗るのとでは話が違う。四六時中波に揺られているのは、自覚する以上に身体に疲れを残す。慣れないのなら尚更だ。
無論船酔いなどというヤワな悩みはなかったが、島に着いたのなら陸に上がっていたいのが本音だった。
村から半刻ほど歩いた丘陵に、オグルヴィヴィはこれでもかと咲いていた。黄色い、綺麗な花だ。
コックはうひょーと嬉しそうに声を上げ、屈んで鼻を寄せ匂いを嗅いだ。
「良い匂いだ。一輪はそのまま透明なゼリーに閉じ込めて…あとは摺って蜜を取り出して…」
この金髪コックは、優秀な料理人である。真面目で、向上心があり、どんなときも手を抜かず、仕事に対しては愛を持って忠実。
強いが柄の悪いただのガキかと思っていたが、共に生活をして、フランキーはコックをとても身近に感じるようになった。手に職を持った者同士、自然と通じ合うものがあったのかもしれない。
それはコックも同じのようで、古巣の海上レストランではフランキーくらいの年かさのコックたちに囲まれていた、だから何となく落ち着くと話していた。
「さて、冷蔵庫貸してもらうぜ。腹出しな」
「オメェな、もちっとでいいから下手に出ろよ」
言いながら腹の扉を開けてやると、コックは勝手にコーラを1本取り出し、空いたスペースにオグルヴィヴィをガンガン詰めていった。
フランキーは自分のスーパーなリーゼントがちょっぴりロマンチック乙女風になってしまった気がしたが、鏡がないので確認できず、コックも花に夢中で、そんなことには気付かない。
あらかた詰め終わると、コックは手早く扉を閉め、コーラ片手にタバコを取り出し一服。
「俺、炭酸苦手なんだよな。舌がバカになりそうで」
「じゃあ飲むなよ」
そんな遣り取りをしながら、歩き出す。
コックは背が低い方ではないのだが、並ぶとフランキーの肩ほどまでしかない。従ってつむじがよく見える。真上から見ると、傾きかけた太陽の陽に反射した髪が花のように広がり、腹の中のオグルヴィヴィそっくりだと思った。
「陸はさ、いいよな。特にこんな春島は食いもんも豊富だし。みんなはつまらねェ島だって言うが、俺には宝の山に見えるよ」
「ああ、オメェは海育ちだったか」
「だからかな、余計に山とか森とか、有難く思えるのは」
普段は騒がしくアホっぽいコックだが、ときにはこんな一面も見せる。フランキーにはそんな彼が微笑ましく、好ましい。
「俺の子分共の中にも、料理の得意なのがいてな。ソイツも同じようなこと言ってたぜ。海はときに残酷だが、陸はいつも優しいってな」
「へェ。あのロクでもねェ野郎共の中にもマトモなヤツがいたもんだ」
他愛もない話をしながら歩調を合わせていると、見えてきた村影の前に見慣れた姿が立っていた。ロロノアだ。
彼はこちらを気にしている風だが見ようとはせず、どこか拗ねたように唇を固く結んでいた。
フランキーはコックをちらりと見たが、コックもまた気付いているくせに気付かない振りをして、わざとらしく鼻歌など口ずさんでいる。
フランキーは内心「やっぱりオメェらデキてるだろ」と思ったが、口にはしない。アニキなので。
一体何がしたいのだ、このふたりは。そうバカバカしく思いつつ、仕方なしに自分からロロノアに声をかける。
「よォ、何してんだ?花いっぱい取れたからよ、船に帰るぜ。オメェも帰るか?」
「…オウ」
ロロノアは微妙に憮然とした表情で、フランキーの後ろを歩き出した。
「マリモよォ、テメェのその大傷も中が冷蔵庫だったら連れて行ってやれたのになァ。フランキー、ソイツにチャックつけて改造してやれや。腹ン中が零下20℃くらいになるよーに」
「うるせェ。誰がテメェなんかと花摘みに行きたがるか」
「だったら何でこんなトコにいるのかなロロちゃんよォ!腹巻で腐りそうなほどぬっくい腹の持ち主には俺ァ用はねェんですけども!」
途端にベラベラと悪態を吐くコックの顔が、少しだけ嬉しそうなのは…つまり、そういうことだろう。
ヤキモチ焼いて探しにくるなんて、ロロノアも存外可愛げのある男だ。
フランキーは本日3度目の「オメェら確実にデキてるだろ」と思ったが、やっぱり口には出さなかった。
しかしその代わり、
「オグルヴィヴィの花畑は、オメェとコックみたいだったぞ」
と、つい言ってしまった。
するとコックは烈火の如くフランキーを詰りだし、ロロノアはフランキーの冷蔵庫を開けて花を台無しにした。洗いもしていない生のまま花を齧り、そして一言。
「このクソコックはこんな甘くねェぞ」
フランキーに向けられた視線がやけに挑戦的だったのは…若さゆえだろうか。
もう二度と余計な口は挟むまいと、フランキーは犬も食わないエサを見る目で、胸倉を掴み合うふたりを見つめたのだった。