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手作りマニアでオタクで育児奮闘中のカオスな生活 …をしているゾロサンサイトの緊急避難先です

2024

0517
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2011

1005

お久しぶりです。
随分前に日記に書いて、引っ越しの際にアップし忘れていたものが出てきたので、一応ここに載せておきます。
フランキー兄貴が仲間になったばかりの頃書いたものだと思います。
タイトル決めたはずだったけど、何だったかな…忘れたよ…
万一覚えている方がおられましたら、ご一報を~!



実験的フランキー視点ゾロサン


「一面、オメェとロロノアだらけみてェだな」
丘陵に咲き広がる花畑は、まるで黄色と緑の絨毯のようで、どこかで見覚えがあると思ったらそれは、コックとロロノアだと思い当たった。
なのでそう呟くと、何故かぐるぐるコックは顔を真っ赤にして、口をパクパクとさせている。
普段はスカして、無理やりアホな自分を隠したがっているようなコックだが、金魚のようなその様は、笑い出したくなるほど子供っぽかった。
「な、おま、フランキー!言うに事欠いてマリモと俺の名を並べてみせるたァどういう…!!」
そんなに動揺させるようなことを言っただろうか。
フランキーは、急に汗ダクになりながら訳の分からない理屈を並べ立てるコックの、あまり頭の良くなさそうな顔を見て首を捻った。
まだコイツらの仲間になって日が浅い。日常生活には溶け込んだつもりでいたが、まだヤツらの人間関係を把握しきったとは言えない。
どうもロロノアとこのコックは仲が悪いらしいのだが、派手なケンカを繰り広げていても、何故か周りの仲間は一様に呆れ顔で、明らかに犬も食わないエサを見るような視線を二人に送っている。それを見て、単なる犬猿の仲ではなさそうだと思っていたのだが。
フランキーは割と聡い男である。人生経験が豊富な分、人を見抜く力にも長けている。
もしかしたらとは思っていたが、このコックの動揺した様子に、ハハーンと納得した。
しかしここで「さてはオメェらデキてるな?」などと言わないところが、人格者たるアニキなのである。
わめき続けるコックを揶揄いたくなる気持ちもあるが、バレバレでも当人が隠しておきたいのならば、あえて触れてやることもあるまい。
どういう経緯で、あのダラけた野生の獣のようなロロノアと、世界一の女好きコックがそんなことになったのか。
まァ長い航海、知りたくなくても知る機会もあるだろうと、フランキーはコックの背中を叩いた。
「ホレ、この花摘んで帰るんだろ?急がねェと日が暮れる」
「…あ?…ああ、そうだ、花…」
毒気を抜かれたように大きな目を更に丸くし、コックは落ち着きを取り戻しながら頷いた。

ここは春島、オグルヴィ島。
平和で小さな村がひとつだけある、長閑な場所である。
ウォーターセブンを出航してからというもの、さしものフランキーも顎が外れそうな冒険が息つく暇もなく向こうからやってきていたのだが、ようやく一心地できそうな、言い換えれば面白みのない島に今朝到着したばかりだ。
船番を除く全員で散策をした後、特筆すべきもののない島に興味をなくしたクルー達は、一晩で溜まるというログをおとなしく船で待つことにした。
しかしコックだけは、この島唯一の名産である「オグルヴィヴィ」を求めて、村人に聞いた丘陵へやって来た。
何でも非常に甘い蜜を含んだ食用花だそうで、あまりに群生しているため売るほどの価値はなく、勝手に生えているのを収穫して行け、とのこと。
「その花でレディたちに甘ーいゼリーを作って差し上げるんだー。だから一緒に来い」
黄色い頭をピヨピヨと振って、コックはフランキーに偉そうに命令した。
オグルヴィヴィは春に一斉に咲く花で、しかし摘んですぐに低温で保存しないと萎れてしまうらしい。美味いが扱いが面倒でもあると村人は言った。
そんなわけで、腹に冷蔵庫を持つフランキーがご指名されたのだ。
フランキーは一晩しかない停泊の間に、船の外周をチェックしたかったのだが、見たところまだ大した傷みもないようだったので、コックの花摘みに付き合ってやることにした。
実を言えば、まだ船旅には慣れていない。船大工が船に慣れていないとは何事かと思うのだが、作るのと乗るのとでは話が違う。四六時中波に揺られているのは、自覚する以上に身体に疲れを残す。慣れないのなら尚更だ。
無論船酔いなどというヤワな悩みはなかったが、島に着いたのなら陸に上がっていたいのが本音だった。
村から半刻ほど歩いた丘陵に、オグルヴィヴィはこれでもかと咲いていた。黄色い、綺麗な花だ。
コックはうひょーと嬉しそうに声を上げ、屈んで鼻を寄せ匂いを嗅いだ。
「良い匂いだ。一輪はそのまま透明なゼリーに閉じ込めて…あとは摺って蜜を取り出して…」
この金髪コックは、優秀な料理人である。真面目で、向上心があり、どんなときも手を抜かず、仕事に対しては愛を持って忠実。
強いが柄の悪いただのガキかと思っていたが、共に生活をして、フランキーはコックをとても身近に感じるようになった。手に職を持った者同士、自然と通じ合うものがあったのかもしれない。
それはコックも同じのようで、古巣の海上レストランではフランキーくらいの年かさのコックたちに囲まれていた、だから何となく落ち着くと話していた。
「さて、冷蔵庫貸してもらうぜ。腹出しな」
「オメェな、もちっとでいいから下手に出ろよ」
言いながら腹の扉を開けてやると、コックは勝手にコーラを1本取り出し、空いたスペースにオグルヴィヴィをガンガン詰めていった。
フランキーは自分のスーパーなリーゼントがちょっぴりロマンチック乙女風になってしまった気がしたが、鏡がないので確認できず、コックも花に夢中で、そんなことには気付かない。
あらかた詰め終わると、コックは手早く扉を閉め、コーラ片手にタバコを取り出し一服。
「俺、炭酸苦手なんだよな。舌がバカになりそうで」
「じゃあ飲むなよ」
そんな遣り取りをしながら、歩き出す。
コックは背が低い方ではないのだが、並ぶとフランキーの肩ほどまでしかない。従ってつむじがよく見える。真上から見ると、傾きかけた太陽の陽に反射した髪が花のように広がり、腹の中のオグルヴィヴィそっくりだと思った。
「陸はさ、いいよな。特にこんな春島は食いもんも豊富だし。みんなはつまらねェ島だって言うが、俺には宝の山に見えるよ」
「ああ、オメェは海育ちだったか」
「だからかな、余計に山とか森とか、有難く思えるのは」
普段は騒がしくアホっぽいコックだが、ときにはこんな一面も見せる。フランキーにはそんな彼が微笑ましく、好ましい。
「俺の子分共の中にも、料理の得意なのがいてな。ソイツも同じようなこと言ってたぜ。海はときに残酷だが、陸はいつも優しいってな」
「へェ。あのロクでもねェ野郎共の中にもマトモなヤツがいたもんだ」
他愛もない話をしながら歩調を合わせていると、見えてきた村影の前に見慣れた姿が立っていた。ロロノアだ。
彼はこちらを気にしている風だが見ようとはせず、どこか拗ねたように唇を固く結んでいた。
フランキーはコックをちらりと見たが、コックもまた気付いているくせに気付かない振りをして、わざとらしく鼻歌など口ずさんでいる。
フランキーは内心「やっぱりオメェらデキてるだろ」と思ったが、口にはしない。アニキなので。
一体何がしたいのだ、このふたりは。そうバカバカしく思いつつ、仕方なしに自分からロロノアに声をかける。
「よォ、何してんだ?花いっぱい取れたからよ、船に帰るぜ。オメェも帰るか?」
「…オウ」
ロロノアは微妙に憮然とした表情で、フランキーの後ろを歩き出した。
「マリモよォ、テメェのその大傷も中が冷蔵庫だったら連れて行ってやれたのになァ。フランキー、ソイツにチャックつけて改造してやれや。腹ン中が零下20℃くらいになるよーに」
「うるせェ。誰がテメェなんかと花摘みに行きたがるか」
「だったら何でこんなトコにいるのかなロロちゃんよォ!腹巻で腐りそうなほどぬっくい腹の持ち主には俺ァ用はねェんですけども!」
途端にベラベラと悪態を吐くコックの顔が、少しだけ嬉しそうなのは…つまり、そういうことだろう。
ヤキモチ焼いて探しにくるなんて、ロロノアも存外可愛げのある男だ。
フランキーは本日3度目の「オメェら確実にデキてるだろ」と思ったが、やっぱり口には出さなかった。
しかしその代わり、
「オグルヴィヴィの花畑は、オメェとコックみたいだったぞ」
と、つい言ってしまった。
するとコックは烈火の如くフランキーを詰りだし、ロロノアはフランキーの冷蔵庫を開けて花を台無しにした。洗いもしていない生のまま花を齧り、そして一言。
「このクソコックはこんな甘くねェぞ」
フランキーに向けられた視線がやけに挑戦的だったのは…若さゆえだろうか。
もう二度と余計な口は挟むまいと、フランキーは犬も食わないエサを見る目で、胸倉を掴み合うふたりを見つめたのだった。


 

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2010

1010

まさに支離滅裂な感想は下の記事にありますー。
それだけじゃどうにも収まらなかったので、続きから超捏造21歳ゾロサン再会編、小話など。

2010

0126

賑やかしい宴会の後。
ラウンジに残っているのは、片付け物をしているサンジと、ダラダラ呑み続けているゾロだけになった。
「あのさァ」
山のような食器をカチャカチャと洗うサンジが、顔も上げずに言った。
「求愛してみてくんねェかな、お前の故郷のやり方でさ」
妙な早口だった。
ゾロは残り少ない酒瓶を悲しげに見つめていたので、一瞬反応が遅れる。
余り性能の良くない脳ミソを叩き起こして、「コキョウノキュウアイ」について急いで検索してみたが、ヒット数はゼロである。
「…知らん」
「知らねェってお前、見たことくらいあるだろ」
相変わらずサンジが目も合わさないので、ゾロは盛大に顔を顰めた。
ゾロとサンジは、所謂お付き合い中である。
むかつくけど好きだし、鬱陶しいけどそばにいたいし、すごく色んな所に触ってみたいのだ。
そんな欲求が見事に一致したので、じゃあお付き合いしてみましょうか、と相成っている今日この頃。キスしたり、イヤらしい感じで触ったりする関係だ。だがまだ最後まではいってない。
「ねェよ、まだガキだったし」
「言え。言ったらもう1本酒だしてやる」
それは是非とも頑張らねば。ゾロは懐かしい故郷の景色を辿り、それらしき光景を思い出そうと試みた。
サンジがこんなことを言い出した理由については、大方の見当がつく。二人のお付き合いのきっかけが、サンジによる「故郷の求愛」の披露だったからだ。
どんな話の流れだったかは定かでないが、お前ェはレディへの愛が足りなさ過ぎる、おれの故郷ではこうやって求愛すんだ――とか講釈垂れて、ゾロの前で跪き、右手を左胸に当てて「…僕の愛」とか言いやがったのだ。
そこは爆笑しておくべき箇所だった。バカアホエロと笑い飛ばすべきだったのに、ゾロは何だか真顔になってしまった。
そしてサンジも、そんなゾロを凝視して、次に自分がどうすべきか咄嗟に判断したらしい。
ゾロの左手がサンジの左胸に導かれ、サンジの左手がゾロの左胸を触った。サンジは情けないような可愛いような顔をして、唇だけでゾロを呼んだ。
表面張力ギリギリまで溜め込んでいた感情が決壊するに、それは充分な衝動だった。
以後、二人はわりと仲良しなのである。
そんな経緯があったものだから、サンジが言い出したこともゾロには理解できた。
何しろ「故郷の求愛」というヤツは、ものすごいパワーを秘めている。生涯仲間でいようと決心していたゾロの心をも、簡単に絆してしまったのだ。
自分もやってもらいてェんだろうな、と思う。サンジは盛大なアホだが、愛されたがりな可愛いところもある。
俯いたまま熱心に皿を洗い続けているフリのサンジが、急に、自分が守り慈しんでやらねばならない小さな生き物のように思えて、ゾロは歯噛みした。
お付き合いってのは凄い。あのエロ眉毛がそんな風に見える日が来ようとは。
あいつを喜ばせてやりたいなどと、天変地異が起こりそうなことを考えつつ、記憶を辿ったゾロの脳裏に、朧気な光景が蘇る。
「…手紙…恋文…?」
「何だ!どうした!」
噛み付くように食いついてきたサンジの顔が、紅潮していた。期待、羞恥、不安、そんなものが綯い交ぜになった顔だ。
「キュウアイ…じゃない、夜這い…?」
「良いから話せ、な、酒やるから」
ドンと目の前にラムが置かれた。一気にそれを飲み干すと、ぼんやりしていた記憶が急に鮮明になる。
「ん、夜這いだ。でも求愛にも使ってた」
「何だよ、手紙?ラブレター?」
「そうだな、相手に好きだぞ、と伝えるに一番ポピュラーな手だった気がする。相手の下駄箱にこう」
「ゲタ…バコ?…GETA?」
ゾロは内心、うわこいつ変なとこでマジ外人、と思って笑った。
「あー、何だ、道場とか会合所で靴入れておくアレ」
「あ、シューズラック?シューズラックだろ!」
「…お前が考えるシューズラックとやらと、おれの下駄箱とは天地の隔たりがあるだろうが、まァ主な用途は同じだ。その下駄箱にな、思いの丈を書いた手紙をそっと忍ばせておくわけだ」
「へー!!すげェ奥手な感じだなァ、素朴っつーか。でもレディからそんなお手紙もらったら、死ぬほど可愛くて嬉しいなオイ」
ニコニコと嬉しそうなサンジの姿に気を良くして、ゾロは更に語った。
「だが本格的なのはまた別だ。主に夜這いに使われる」
「よ、夜這い…!!」
驚愕して鼻を押さえるサンジを尻目に、ゾロは腕を組んで頷く。
「聞いた話だが…まず男が目当ての女に手紙を書くわけだ。それは直球じゃ無粋だから、すげェ遠回しな手紙だ。テメェを思うと夜も眠れず、悶々と妄想ばっかしている、みてェなことを飾り立てた文章で書く。季節感も大事

だ」
「…名ニシ負ハバ逢坂山ノサネカヅラ…人ニ知ラレデクルヨシモガナ…とか…?」
「お前ホント東洋マニアの外人みてェだな」
「で!?もらったレディはどうするわけだよ!」
「嫌なやつからなら放置だ」
「厳しい!」
「意に沿うやつなら、返事を出す。こっちもその気だ、って書く。季節感と遠回し重視で。それを2回繰り返して、ようやっと男は女の部屋に忍び込めるって手筈だ」
「はー…」
サンジは恐れ入ったとでも言うように、両手を胸の前で合わせて感心している。アホだなァ、と思う。
「で?どうする?恋文書いて欲しいのか」
ニヤリと笑って問いかけると、サンジはハッと息を詰めてシンクの奥へ逃げ込んでしまった。これは追わねば男が廃る。
腕を捕まえ引き寄せて、壁際に追い詰めた所で抱きしめた。耳に直接囁いてみる。
「面倒臭ェしきたりだったが…今思えば焦らしの手かもな」
「じ、焦らしか…恋愛の大事な奥義だな…」
「おう、焦らして焦らして…突っ込めたときの快感な。テメェもいい加減、焦らすのやめて突っ込ませたらど」
最後まで言えずに、ゾロは吹っ飛んだ。完全に油断しきった腹に、羊肉はキツい。
「て、手紙だ…!おれをその気にさせる手紙を書くことをテメェに課す!!」
叫んだサンジは額まで真っ赤で、ゾロをますます焦らすのだった。

それから数日、図書室に篭って辞書と睨み合う剣士の姿を目撃したロビンは、寒気に痩身を震わせた。

――――ロロノア・ゾロの最初の恋文
テメェの尻を思うと、身も世もなく、夜も昼も眠れるが、テメェの夢ばかり見る。次は春島に着くらしいから、盛りの季節にテメェを抱きたい。


――――サンジの返信
お前は馬か。次の春島は賑やからしいから、お姉さまにでも抜いてもらってタネ付けして来い。


――――ロロノア・ゾロの2回目の恋文
テメェを抱きてェって言ってんだ。春島まで待ってやるのだってギリギリだ。つーか今晩、展望室で裸で待ってろ。


――――サンジの2回目の返信
風邪ひくわボケ!もうちっとだけでいいから遠回しに言え!季節感も完全に無視じゃねェか!…今晩の夜食リクエストあるか?


――――ロロノア・ゾロの3回目の恋文
おにぎり。鮭とイクラと海老マヨ。おれは他人の握ったおにぎりは好かんが、お前のだけはお袋のより美味いと思う。


――――サンジの3回目の返信
了解。  
                             ――――裸で待ってる。

 




よそのお母さんが握ったおにぎりって、ちょっとだけ抵抗ありませんか。というお話。
 

恒例!キャラ弁惨敗の歴史
~今回はわりと上手くいったよ カレーパンマンとシナモン編


おかずがいつも同じ…
 

2009

0305

遅れましたがサン誕っぽく。
不本意ながら!ゾロサン色は極薄です。何故だ…


ガラス越しのエンターティナー


動物園にある悪いジョークのような、「ヒト」と書かれた檻。
ウソップはアクアリウムを漂う金髪を眺めながら、そんなことを思い出した。
船上とは思えぬ粋な空間に鎮座するこの巨大な水槽を、多くの仲間は「アクアリウム」と呼ぶ。作ったフランキーがそう言うのだから、公称とみて良いだろう。
だがサンジだけは、頑としてそれを「生簀」と呼んだ。食料を新鮮なまま保持することの出来る、画期的なシロモノだと。
ルフィやゾロは単に「水槽」と呼ぶ。そちらの方がまだ即物的でないが、作った人間のロマンチズムを汲み取ってもらいたいものだと、フランキーが何も言わぬ代わりにウソップはそう思っていた。
アクアリウムと呼ぶ人間は、その水槽を観賞する。だが生簀と呼ぶ人間は、自ら水槽に入り込んで食料を捕獲する。ゆえに期せずして、ウソップはアクアリウムを遊泳するサンジを観賞するハメになったのだ。
広い水槽を泳ぐ魚を上から網で掬うのは至難の業で、こうして「漁」をする方が手っ取り早いのは判るが、海パン1枚で格闘する料理人を楽しく眺めながら、ワイングラスを傾ける趣味はウソップにはない。何と言うか、絶妙にシュールな光景だ。
泳ぎが達者なのは判る。だが小魚に海パンをつつかれ、半ケツ晒しながら頬をパンパンに膨らませたサンジは、可哀相なほど滑稽だった。
「今日のお目当てはマグロかい?」
ガラス越しに声をかけてみるが、もちろん返答はない。その一方通行な感じが気に入って、ウソップは言葉を投げかけ続ける。
「俺は刺身より唐揚げが好きだな」
「おめー毛とか水槽に漂わすなよ」
「今日のナミのブラジャーは黒だったぞ。透けて見えたぞ」
「うちのサンちゃんはゾロに惚れてるってもっぱらの噂だぞ、マジか?」
ガラスの向こうに声は届いていないけれども、サンジはウソップの口が盛んに動いていることに気付いたようだ。
言葉の意味も解せず、ヘラリと笑ってまた漁に戻る。
「そうかい、惚れてんのかい」
勝手な解釈をして、悦に入る。笑った顔がバカっぽくて気に入る。
誰かが丸バツゲームをした跡が残ったチラシを取り上げて、裏の白紙にマジックで「サンジ・コック綱エロ目悪足科ヤニ中属金髪種、獰猛で几帳面」と書き込んでセロテープで水槽に貼り付けた。バカっぽい。
不審に思ったサンジが紙に近寄り、裏から何となく読んで、怒って暴れる。水の中なので一層バカっぽい。
「溺れてんのか」
ゾロがのっそりと入ってきて、水槽の中を面白そうに眺めるので、ウソップは解説してやった。
「あの幻の金髪種はな、おめーに惚れてんだとよ」
「マジかよ、おい可愛がってやるぞ」
ゾロは案外ジョークの通じる男なので、即座にウソップの遊びに加わった。ガラス越しに声をかけ、チュッとしてみせる。キモいが面白い。
サンジは更に怒り狂って、大量の酸素をガボッと口から吐いた。途端に息苦しくなって、出口に向かって慌てて浮上。それを見て人でなしは笑う。
「おいウソップ、上行って水槽の出口閉めて来いよ。重し乗せてな」
「うわー…お前ホントにろくでもねェな」
無論ウソップは実行したりはしないが、ゾロは不満そうだ。何というドS。
そしてチラシに「兄貴募集中」と書き加えて、ゾロは去って行った。見事な嫌がらせの連続ジャブだ。一分の隙もない。
学ぶところが多いなァ、とウソップが感心していると、酸素を得たサンジが再び水槽に現れた。不機嫌そうにグル眉をしかめて、魚を追うことに集中している。身の丈ほどのマグロを抱きかかえてはスルリと逃げられ、また追いかける。まるで奴のナンパの縮図を見るようだ。
そんな中で今度はナミとロビンが入ってきて、サンジの姿にひとしきり笑った。ナミの白いTシャツから、やっぱり黒いブラジャーが透けている。
「やだー、サンジくん可愛いー」
「珍種の人魚を捕まえて飼っているみたいね。眺めてお酒でも飲みたいわ」
当のサンジは途端に漁のことなど忘却の彼方で、ガラス越しに小鼻を膨らませて女どもに懐きだす。
ナミがツンツンとガラスを叩けば、そちらに泳ぎ寄ってナミの指を舐めようと口をぱくぱくする。ロビンが別の場所をつつけば、またそちらへ泳いでぱくぱく。翻弄されて漂う様は、本当にバカっぽいが幸せそうだった。
しばらくそんな遊びを繰り返して、ふとサンジが大きく目を見開き、ガボォッと派手に息を吐いて、ついでに鼻血まで噴いた。可愛いぱくぱく魚は慌てて再び浮上する。
「ナミ、お前の透け具合をサンジが発見しちまったぞ」
一応そうフォローすると、ナミは笑って、
「今日は一年に一度のサービスデーだもの」
などと嘯き、ロビンとクスクス笑って出て行った。何と効果的で安いプレゼントだ。学ぶべきところが多い。
入れ替わりで、大荷物を抱えたチョッパーたちがぞろぞろとムサ苦しく入ってきた。三度戻ったサンジは、すでにナミたちがいないことを確認するとあからさまにガッカリ肩を落とし、何やら作業を開始する男どもを無視してマグロに挑む。
「サンジは何をやってるんだ?」
折り紙で作ったチープな輪っかを壁に張り巡らせながら、チョッパーが楽しそうに訊く。するとフランキーはいかにも適当な感じで「兄貴募集してんだろ」と言い、あ、俺のこと待ってんのかと気付いて、申し訳なさそうにガラスに投げキッスした。
「すまねェが俺は今ちと忙しい。終わったら存分に兄貴と呼んで慕っていいぜ」
サンジは投げられたキスを足で叩き落とした。また溺れるように暴れている。
「料理長は良いですね、お魚ちゃん達と仲良く泳げて。そんなあなたに捧げるセレナード」
ブルックが男らしくも可愛らしい偽リトルマーメイドっぽい曲を演奏し、ウソップはいたく感激した。水槽の中に聞こえてないなんて、勿体無さ過ぎる。
演奏が終わる頃には部屋の中は一変、「サンジおめでとう」一色になった。例のチラシまで立派な立て看板になっているのには恐れ入る。
サンジは横目でちらりと室内を窺い、唇をアヒル仕様に尖らせて酸素を補給しに行ってしまった。手には一匹の魚もない。内心気になって仕方なかったに違いないのだ。あれは照れたときの表情だと、ウソップは知っている。
すっかりパーティ的な空間になったアクアリウムは、またウソップだけになったが、ほどなくして醤油をいっぱいに満たした小皿と箸を持って、我らが船長が現れた。
「あれ?サンジは?」
「息継ぎ中」
「俺もう我慢できねェよー。サンジサンジサンジー」
そのリズムの合わせて箸でガラスを叩くと、颯爽とサンジが姿を見せた。ルフィの醤油を目に留めると、グッと親指を立てて、任せろみたいなことをぱくぱくしている。ここへ来てようやく、サンジは料理人たる自分に立ち返ったらしい。
「いけ、そこだ、あー、頑張れサンジ!!」
右へ左へ行くサンジと呼応してルフィの体が揺れる。醤油が数滴床に垂れる。思わずつられてウソップの体も揺れてしまう。
「まだ捕まらないのー?」
「他のお料理運んでしまうわよ」
リフト越しに上から女達の声が聞こえて、同時にキリキリとリフトが下りてきた。ホカホカと湯気を上げる晩餐を受け取ると、またリフトは上がっていき、それを3回繰り返したところでリフトは止まった。
テーブルに料理を適当に並べると、ルフィの箸が攻撃してくる。折角サンジが格闘前に残していった料理だ、獲られてはなるまいとウソップは応戦した。
「見てくれウソップ、ケーキ!ケーキ!デッケェ!」
チョッパーとブルックがウェディングケーキもかくやという派手なケーキを運び込み、フランキーが木枠で即席の舞台を作り出す。ナミとロビンも入ってきて、ケーキのクリームをぺろりと舐めた。
「自分のためにご苦労なこった」
ゾロが腹をぼりぼり掻きながらウソップの隣へ来たので、ルフィのお相手を譲ってやる。
そう、このケーキも料理も漁も、サンジ自身の誕生日パーティのためだ。けれども、サンジにとっては仲間に提供するたまの楽しいイベントに過ぎないのだろう。料理人は仲間の空腹と退屈を嫌うのだ。
全員が何となくアクアリウムに集まって、いつの間にか沈黙が落ち、16の目がサンジを追う。動きに合わせて体を揺らす。
いけ、そこだ、逃げるなマグロ!
バカバカしいが、さながらショーのようにサンジを観賞し応援する。そして遂にマグロを捕獲すると、一同は一瞬息を呑み、ロビンが小さな声で「獲ったどー」と呟いた瞬間に歓声が弾けた。
万雷の拍手の中、ウソップはそっと座を辞し、タオルを取りに男部屋へ向かう。
これからサンジはパーティのメインイベントである、マグロ解体ショーを行うのだ。ゾロの言ではないが、自分の誕生日だというのにエンターティナーに徹するその姿、ご苦労なこったとウソップも思う。けれど学ぶべきところも多い。
そんなサンジは仲間たちからイジられ可愛がられ、そしてとても愛されている。そんなことを再確認して、ウソップは心温かくなった。
せめてフカフカのタオルで彼を労い、板前衣装にねじり鉢巻を巻くのを手伝ってやろう、と思うのだ。孤独なスターにも、付き人兼マネージャーくらいいても良いだろう。ギャラはマグロの唐揚げでも貰えれば充分だ。
多忙なる我らがスターに、乾杯。

 

04 2024/05 06
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